暫定語意

虚構、創作あるいはフィクションに纏わる話

小説『何者』 自己分析のその先で躓く就活生たち

 

 朝井リョウの原作と、三浦大輔の映画を観ての感想。

 小説が苦手という人や、感受性が高すぎて精神的ダメージを受けやすい人は映画から観た方がいいかもしれない。ジャンルの構造上仕方ないところはあるが、基本的には原作のほうが心理描写が読みやすいのでそっちをお薦めたい。

 余談だが、作者は新入社員として働きながら本作を書き上げたらしい。最年少直木賞作家のバイタリティー恐るべし。

 

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映画「パトリオット・デイ」 当事者と外野の温度差

監督 ピーター・バーグ

キャスト マーク・ウォールバーグケビン・ベーコン 他


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 日本から遙か約一万㎞、太平洋を越えた彼方の地で発生したテロリズムを我々日本人はどのように認識できるか。突き放すような他人行儀で冷たい物言いであることは承知の上、それでもあえて言わせてもらうならば、現地と接点を一切もたない人々にとって液晶ディスプレイ上で放映される記録映像は、所詮一つのフィクションに過ぎない。たとえそれがどれだけ生々しくリアリティのある体験だったとしても、身を以て体感したリアルには程遠いものだ。百聞は一見にしかずという諺があるように、他人から伝聞した情報というのは実際に見聞きした出来事とは明らかに一線を画す。

 

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映画「夜明け告げるルーのうた」 解説と考察

 監督 湯浅政明
 脚本 吉田玲子

 

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 内気な少年カイが人魚ルーと知り合い、次第に心を解放していく、そんなお話。


 高校生バンドのサクセスストーリーのように見せながら、一方で、思春期な少年と純粋無垢な人魚との心の触れ合いをやってみたり、よくある漁村の揉め事を扱ったと思えば、今度は、民族伝承が紛れもない現実として立ち塞がり村全体を襲ってみたりと、なかなかやりたい放題である。もちろんそれは、物語として一貫性に欠けるという意味ではなく、テンポ良く展開を転がすための工夫に相違ない。事実、それぞれ小出しにしていた諍いは、物語終盤には綺麗さっぱり片付いてしまう。ギャグも丁寧に挟んでくれるし、そういう意味で、本作は観客に優しいエンタメ系映画といえるのかもしれない。

 

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